ヘブライ人への手紙8

ヘブライ人への手紙説教３６　　　　　　　　　　　　　　2023年1月1日

信仰とは、望んでいる事柄を確信し、見えない事実を確認することです。昔の人たちは、この信仰のゆえに神に認められました。

信仰によって、わたしたちは、この世界が神の言葉によって創造され、従って見えるものは、目に見えているものからできたのではないことが分かるのです。

信仰によって、アベルはカインより優れたいけにえを神に献げ、その信仰によって、正しい者であると証明されました。神が彼の献げ物を認められたからです。アベルは死にましたが、信仰によってまだ語っています。信仰によって、エノクは死を経験しないように、天に移されました。神が彼を移されたので、見えなくなったのです。移される前に、神に喜ばれていたことが証明されていたからです。信仰がなければ、神に喜ばれることはできません。神に近づく者は、神が存在しておられることと、また、神は御自分を求める者たちに報いてくださる方であることを、信じていなければならないからです。信仰によって、ノアはまだ見ていない事柄について神のお告げを受けたとき、恐れかしこみながら、自分の家族を救うために箱舟を造り、その信仰によって世界を罪に定め、また信仰に基づく義を受け継ぐ者となりました。

信仰によって、アブラハムは、自分が財産として受け継ぐことになる土地に出て行くように召し出されると、これに服従し、行き先も知らずに出発したのです。信仰によって、アブラハムは他国に宿るようにして約束の地に住み、同じ約束されたものを共に受け継ぐ者であるイサク、ヤコブと一緒に幕屋に住みました。アブラハムは、神が設計者であり建設者である堅固な土台を持つ都を待望していたからです。信仰によって、不妊の女サラ自身も、年齢が盛りを過ぎていたのに子をもうける力を得ました。約束なさった方は真実な方であると、信じていたからです。それで、死んだも同様の一人の人から空の星のように、また海辺の数えきれない砂のように、多くの子孫が生まれたのです。

この人たちは皆、信仰を抱いて死にました。約束されたものを手に入れていませんでしたが、はるかにそれを見て喜びの声をあげ、自分たちが地上ではよそ者であり、仮住まいの者であることを、公に言い表したのです。このように言う人たちは、自分が故郷を探し求めていることを明らかに表しているのです。もし出て来た土地のことを思っていたのなら、戻るのに良い機会もあったかもしれません。ところが実際は、彼らは更にまさった故郷、すなわち天の故郷を熱望していたのです。だから、神は彼らの神と呼ばれることを恥となさいません。神は、彼らのために都を準備されていたからです。

信仰によって、アブラハムは、試練を受けたとき、イサクを献げました。つまり、約束を受けていた者が、独り子を献げようとしたのです。この独り子については、「イサクから生まれる者が、あなたの子孫と呼ばれる」と言われていました。アブラハムは、神が人を死者の中から生き返らせることもおできになると信じたのです。それで彼は、イサクを返してもらいましたが、それは死者の中から返してもらったも同然です。信仰によって、イサクは、将来のことについても、ヤコブとエサウのために祝福を祈りました。信仰によって、ヤコブは死に臨んで、ヨセフの息子たちの一人一人のために祝福を祈り、杖の先に寄りかかって神を礼拝しました。信仰によって、ヨセフは臨終のとき、イスラエルの子らの脱出について語り、自分の遺骨について指示を与えました。

信仰によって、モーセは生まれてから三か月間、両親によって隠されました。その子の美しさを見、王の命令を恐れなかったからです。信仰によって、モーセは成人したとき、ファラオの王女の子と呼ばれることを拒んで、はかない罪の楽しみにふけるより、神の民と共に虐待される方を選び、キリストのゆえに受けるあざけりをエジプトの財宝よりまさる富と考えました。与えられる報いに目を向けていたからです。信仰によって、モーセは王の怒りを恐れず、エジプトを立ち去りました。目に見えない方を見ているようにして、耐え忍んでいたからです。信仰によって、モーセは滅ぼす者が長子たちに手を下すことがないように、過越の食事をし、小羊の血を振りかけました。信仰によって、人々はまるで陸地を通るように紅海を渡りました。同じように渡ろうとしたエジプト人たちは、おぼれて死にました。信仰によって、エリコの城壁は、人々が周りを七日間回った後、崩れ落ちました。信仰によって、娼婦ラハブは、様子を探りに来た者たちを穏やかに迎え入れたために、不従順な者たちと一緒に殺されなくて済みました。

これ以上、何を話そう。もしギデオン、バラク、サムソン、エフタ、ダビデ、サムエル、また預言者たちのことを語るなら、時間が足りないでしょう。信仰によって、この人たちは国々を征服し、正義を行ない、約束されたものを手に入れ、獅子の口をふさぎ、燃え盛る火を消し、剣の刃を逃れ、弱かったのに強い者とされ、戦いの勇者となり、敵軍を敗走させました。

女たちは、死んだ身内を生き返らせてもらいました。他の人たちは、更にまさったよみがえりに達するために、釈放を拒み、拷問にかけられました。また、他の人たちはあざけられ、鞭打たれ、鎖につながれ、投獄されるという目に遭いました。彼らは石で撃ち殺され、虐待され、荒れ野、山、岩穴、地の割れ目をさまよい歩きました。世は彼らにふさわしくなかったのです。

ところで、この人たちはすべて、その信仰のゆえに神に認められながらも、約束されたものを手に入れませんでした。神は、わたしたちのために、更にまさったものを計画してくださったので、わたしたちを除いては、彼らは完全な状態に達しなかったのです。

　　　　　　　　　　　　　　　ヘブライ人への手紙第11章1－40節

説教題:「神に喜ばれること」

新年、明けましておめでとうございます。

今年も主日礼拝で、ヘブライ人への手紙と詩編の御言葉を学びましょう。

ヘブライ人への手紙は第11章に入りました。今朝は、11章4－7節の御言葉を学びましょう。ヘブライ人への手紙は旧約聖書の創世記という書物に出て来る三人の信仰の実例を記しています。アベルとエノクとノアです。

4節は、アベルの信仰の実例です。ヘブライ人への手紙は、旧約聖書の創世記4章にある兄のカインが弟のアベルを殺す物語からアベルの信仰の実例を引いて来ています。

創世記4章に農耕者である兄のカインと羊を飼う者である弟アベルが神に献げ物をしました。神はアベルと彼の献げ物を目に留められたが、カインの献げ物には目を留められませんでした。兄のカインは激しい怒りによって弟のアベルを殺してしまいました。

ヘブライ人への手紙は、神がアベルと彼の献げ物に目を留められた、そのアベルの信仰について4節でこう述べているのです。「信仰によって、アベルはカインより優れたいけにえを神に献げ、その信仰によって、正しい者であると証明されました。神が彼の献げ物を認められたからです。アベルは死にましたが、信仰によってまだ語っています。」

ヘブライ人への手紙は、創世記4章で神がアベルと彼の献げ物に目を留められたと記されていることを、「信仰によって、アベルはカインより優れたいけにえを神に献げ、その信仰によって、正しい者であると証明されました。神が彼の献げ物を認められたからです。」と解釈しています。

ヘブライ人への手紙が解釈していることは、創世記4章にはありません。アベルは羊の群れから肥えた初子を神に献げました。それを神は目に留められました。アベルがその信仰によって正しい者と証明されたというのは、後の時代の人々の解釈です。それをヘブライ人への手紙は取り入れているのです。

わたしたちにアベルの信仰を証ししたかったからです。ですから、ヘブライ人への手紙は「アベルは死にましたが、信仰によってまだ語っています。」と付け加えているのです。アベルは、兄のカインに野原に誘い出されて、殺され、土の中に埋められました。創世記4章では、アベルの復讐の声が神に届きました。神はその声を聞かれ、カインを呪われました。しかし、ヘブライ人への手紙は、そのことには関心がありません。アベルは死んでも、彼の信仰を証ししていることに関心があるのです。

アベルは確かに死にました。しかし、彼はカインに勝る献げ物をすることによって、今でも彼は信仰によって神の御前で正しい者であることを証しし続けているのです。

次の信仰の証人は、エノクです。創世記は5章24節で「エノクは神と共に歩み、神が取られたのでいなくなった。」と記しています。ヘブライ人への手紙は、70人訳ギリシア訳旧約聖書を引用しています。「エノクは神と共に歩み」という文章が「エノクは神に喜ばれ、神が彼を移されたので、彼は見えなくなった」と訳しています。

だから、ヘブライ人への手紙は、5節でこう述べているのです。「信仰によって、エノクは死を経験しないように、天に移されました。神が彼を移されたので、見えなくなったのです。移される前に、神に喜ばれていたことが証明されていたからです。」

ヘブライ人への手紙によれば、エノクが天に移され、見えなくなったのは、彼の信仰の故であり、その彼の信仰を、神が喜ばれていたことの証明でありました。

ヘブライ人への手紙はエノクの信仰が神に喜ばれるものであったと証言し、6節で神に喜ばれるためには信仰が必要であると述べています。

「信仰がなければ、神に喜ばれることはできません。神に近づく者は、神が存在しておられることと、また、神は御自分を求める者たちに報いてくださる方であることを、信じていなければならないからです。」(6節)

この信仰は、わたしたちの信仰です。「神に近づく者」とは、わたしたち礼拝者のことです。礼拝は神に近づくことです。わたしたちが神に近づくためには信仰が必要です。その信仰の内容が「神が存在しておられることと、また、神は御自分を求める者たちに報いてくださる方であること」です。

この礼拝に神が臨在してくださっていることを確証することです。そして神は御自分を求める者たちに報いて下さるお方であるという信仰が必要です。神が報いて下さるとは、わたしたちが神に対してなし得る事よりも遥かに多くのことを神がわたしたちのためにしてくださっているということです。

三番目は、ノアです。彼は、見えない事実を確認する信仰の実例です。創世記の6－9章にノアの洪水の物語があります。

ヘブライ人への手紙は、7節で次のようにノアの信仰について述べています。「信仰によって、ノアはまだ見ていない事柄について神のお告げを受けたとき、恐れかしこみながら、自分の家族を救うために箱舟を造り、その信仰によって世界を罪に定め、また信仰に基づく義を受け継ぐ者となりました。」

ノアは、神から洪水によって人類が滅ぼされるという神の御告げを聞きました。彼は神の御言葉に従順に従いました。彼は彼の家族を救うために箱舟を造りました。ノアは、まだ見ていない事実を信仰によって受け入れました。

そして、神の御告げに従順に従い、箱舟を造りましたノアの信仰は、神から離れ、神の御告げに聞き従わない世界を罪に定めました。

ヘブライ人への手紙は、ノアが「信仰に基づく義を受け継ぐ者となりました」と述べています。創世記は、6章9節で「ノアは神に従う無垢な人であった。ノアは神と共に歩んだ」と証言しています。そして、7章1節で主なる神がノアにこう言われています。「この世代の中であなただけはわたしに従う人だと、わたしは認めている」。創世記は、神の御目を持て、ノアを義人と認めています。ヘブライ人への手紙は、「信仰に基づく義を受け継ぐ者となりました」と述べて、ノアが信仰によって罪の世界の中で正しさを相続する者となったと述べています。

この三人の信仰者たちは、常に主なる神を信頼し、その信仰の故に神に喜ばれるものとなりました。わたしたちも主イエスに信頼し、聖霊なる神に依り頼み、父なる神に従順に従って歩もうではありませんか。

今から聖餐式に与かります。大胆にこの教会に臨在されるキリストに近づきましょう。わたしたちも信仰が必要です。ここにキリストが臨在されることを信じましょう。臨在されるキリストは、わたしたちに「求めなさい。そうすれば与えられる」と約束してくださいます。永遠の命と御国はわたしたちの目には見えない事実です。信じて、御国と永遠の命が与えられると信じて、共に聖餐の恵みに与かろうではありませんか。

お祈りします。

主イエス・キリストの父なる神よ、今年最初の主日礼拝を守ることが出来て感謝します。今朝は、ヘブライ人への手紙第11章1－40節の御言葉を読み、４－7節の御言葉を学びました。アベルとエノクとノアの信仰を学びました。

彼らのように、わたしたちも神に喜ばれる信仰をお与えください。アベルのように心から神に喜ばれる献げ物を献げさせてください。

どうか、エノクのように信仰によってわたしたちを御国へと移してください。この世では神と共に歩ませてください。

ノアのようにまだ見ていない事実を、神の御言葉への聴従において信じさせてください。今年一年、ヘブライ人への手紙を豊かに学ばせてください。

今年最初の聖餐式に与かります。わたしたちには目に見えません罪の赦しと永遠の命を確信させてください。キリストと共に生かしてください。

この祈りと願いを主イエス・キリストの御名によって祈ります。アーメン。

ヘブライ人への手紙説教３７　　　　　　　　　　　　　　2023年1月8日

信仰とは、望んでいる事柄を確信し、見えない事実を確認することです。昔の人たちは、この信仰のゆえに神に認められました。

　　　　　　　　　　　　　　　ヘブライ人への手紙第11章1－40節

説教題:「御国へと召された者」

今朝は、11章1－40節の御言葉をお読みしましたが、8－16節の御言葉を学びましょう。ヘブライ人への手紙は、4－7節で旧約聖書の創世記という書物に出て来る三人の信仰の実例を、すなわち、アベルとエノクとノアの信仰について記しています。彼らに共通することは、信仰によって神に喜ばれたということです。神の御心に適う者たちであり、彼らはそれを信仰によって証ししました。

さて、ヘブライ人への手紙は8－16節において旧約聖書の創世記に登場します族長たちの信仰について記しています。8節は族長アブラハムの信仰です。彼は、わたしたちにとって信仰の父であり、彼は最高の信仰の模範者です。

旧約聖書の創世記12章から25章で族長アブラハムの信仰の物語があります。アブラハムの信仰の特色は、第一に主なる神に召され、従うというものです。

主なる神はアブラハムをメソポタミアにある彼の故郷ウルから召し出されました。アブラハムは、主なる神の約束を信じて、行き先も知らずに主なる神に従って信仰の旅に出ました。その旅に出ました時、彼は75歳の老人でした。途中のハランの町で主なる神は彼にカナンの地をお示しになりました。

カナンは、ヘブライ人への手紙が「アブラハムは、自分が財産として受け継ぐことになる土地に出て行くように召し出される」と記すように、主なる神がアブラハムと彼の子孫たちの全財産として相続を約束された地でした。

約束ですから、実際手には入れていません。それでもアブラハムは主なる神の召しを信じて従い、行く先を知らないで信仰の旅をしたのです。

彼の信仰の第二の特色は、彼は、子のイサク、孫のヤコブと同様に、この世では寄留者として、幕屋生活をしました。

ヘブライ人への手紙は、9節でこう述べています。「信仰によって、アブラハムは他国に宿るようにして約束の地に住み、同じ約束されたものを共に受け継ぐ者であるイサク、ヤコブと一緒に幕屋に住みました。」

「他国に宿るようにして」とは、族長アブラハム、イサク、ヤコブにとって、彼らが相続しますカナンの地は彼らの本国ではないということです。主なる神が彼に相続地として約束されたカナンの地は、アブラハムたちには他国でありました。だから、彼らは、いつでも主なる神の召しがあれば、どこへでも移動できる天幕に住みました。カナンの地の一定の場所に定住することはありませんでした。アブラハムの信仰は寄留者としての地上の歩みでありました。

アブラハムとイサク、ヤコブ、族長たちの信仰の特色の第三は、彼らは寄留者としての地上の歩みであり、天幕生活でしたが、神が建てられた天の御国という希望がありました。

すなわち、彼らがこの世を寄留者として生き、天幕生活をしたのには理由がありました。その理由とは、10節の御言葉です。「アブラハムは、神が設計者であり建設者である堅固な土台を持つ都を待望していたからです。」天幕生活の族長たちは、この世に安住の地を求めなかったのです。彼らを召された主なる神こそが彼らの安住の地でありました。そして、主なる神は天地の創造者であり、彼らのために天の都をお建てになるお方なのです。

ヘブライ人への手紙は、わたしたちにこう述べたいのです。アブラハム、イサク、ヤコブたち、族長たちが希望したのはこの世の栄華ではなく、主なる神御自身が彼らのためにお建てになった御国、天の都であると。

ヘブライ人への手紙は、わたしたちキリスト者の目を通してアブラハムを見ているのかもしれません。

アブラハムの信仰の第四の特色は、見ないで信じる信仰です。それは、11節の約束の子イサクの誕生に関するものです。

主なる神は、アブラハムにカナンの地を相続させると約束されただけではありません。彼の相続するものを継承する子を、彼の妻サラから与えると約束されました。

ヘブライ人への手紙は、彼の妻サラが信じているように述べています。「信仰によって、不妊の女サラ自身も、年齢が盛りを過ぎていたのに子をもうける力を得ました。約束なさった方は真実な方であると、信じていたからです。」

サラには「子をもうける力」はありません。男性の精子を産みつけるということです。だから、信仰によってアブラハムは不妊の妻サラと共に高齢になっていたのに、子が与えられました。それは、彼が妻からアブラハムの子を与えると約束された主なる神が真実な方であると信頼していたからです。

それゆえに旧約聖書の創世記に記されていますように、アブラハムとサラから、肉体的には死んだ者同様であった二人から、主なる神は多くの子孫を、彼らが見ることが出来なかったわたしたちを、空の星のように、海辺の砂のように、アブラハムの子孫として与えられたのです。

13－16節は、アブラハムの信仰の特色の第五です。アブラハム、イサク、ヤコブたちは、神の約束を手に入れることなく、この世を去りました。神の約束を望みながら、この地上での生を終えました。アブラハムは、約束の地カナンを相続することも、彼の多くの子孫を見ることもありませんでした。しかし、見てはいないけれども、信じたのです。彼らに約束された主に心から信頼し、召されてから死ぬまで主に従いました。

それによってわたしたちは彼らが証しすることを知らされるのです。彼らがこの世に故郷を求めるのではなく、天に故郷を求めていたことを。

そして、主なる神は、御自身がアブラハムの神、イサクの神、ヤコブの神と呼ばれることを恥となさいませんでした。主なる神は、彼らのために天に都を用意されました。

ヘブライ人への手紙がこのように述べた時、アブラハムのことを考えたのだろうか。いや、わたしたちキリスト者のことを考えているのではありませんか。わたしたちもこの世ではアブラハムと同じです。この教会に召された時、行き先を知らないで、キリストに従ったのです。わたしたちの本国は天にあることを信じて、この日本の国では寄留者のように生活をしているのです。わたしたちは、この国では永住者ではありません。わたしたちの国籍は天にあることを公にして生きて行こうではありませんか。

わたしたちは、この教会の礼拝に集うごとに、キリストの召しにあずかるのです。キリストは、わたしたちに天の国にわたしたちの住まいを用意できたと告げられるのです。アブラハムのように、見てはいませんが、信じようではありませんか。

お祈りします。

主イエス・キリストの父なる神よ、今朝は、ヘブライ人への手紙第11章1－40節の御言葉を読み、8－16節の御言葉を学びました。族長アブラハムの信仰を学ぶことができて感謝します。

彼らのように、わたしたちもキリストの召しに、従わせてください。わたしたちの国籍は天にあると信じて、この世では寄留者の如く歩ませてください。

罪を赦され、永遠の御国へと信仰の旅を今年一年続けさせてください。

どうか、今年も聖餐式に与かるたびに、わたしたちには目に見えませんが、罪の赦しと永遠の命を確信させてください。キリストと共に生かし、御国へと歩ませてください。

この祈りと願いを主イエス・キリストの御名によって祈ります。アーメン。

ヘブライ人への手紙説教３８　　　　　　　　　　　　　　2023年1月15日

信仰とは、望んでいる事柄を確信し、見えない事実を確認することです。昔の人たちは、この信仰のゆえに神に認められました。

　　　　　　　　　　　　　　　ヘブライ人への手紙第11章1－40節

説教題:「復活の希望」

今朝は、11章1－40節の御言葉をお読みしましたが、17－2２節の御言葉を学びましょう。ヘブライ人への手紙は、１７－２２節で旧約聖書の創世記に出て来る四人の族長たちの信仰の実例を、すなわち、アブラハム、イサク、ヤコブ、ヨセフの信仰について記しています。彼らに共通することは、信仰によって将来を希望したということです。

さて、ヘブライ人への手紙は17－19節で族長アブラハムが神から試練を受けた出来事を記しています。

アブラハムは神を信頼していました。彼は主なる神が息子イサクを犠牲として献げよと命じられた時、主なる神の命令に従順に従いました。

ヘブライ人への手紙が17節で「イサクを献げました」と記し、「独り子を献げようとした」と記していますね。後者は完了形です。前者は未完了形です。だから、「献げました」は、アブラハムが心の中でイサクを犠牲にすることを少しもためらわなかったことを示しています。そして「献げようとした」は、主なる神がアブラハムの行為を制止された時、アブラハムはまさに独り子イサクを犠牲にしようとしていたことを示しています。

この二つの「献げる」という言葉を用いることで、ヘブライ人への手紙がわたしたち読者に伝えたいことは、アブラハムは主なる神に完全に服従したということです。

ヘブライ人への手紙は、18節でイサクのことをアブラハムの独り子と述べています。それは、正確さを欠くように思われるかもしれません。なぜなら、アブラハムにはイシュマエルというもう一人の息子がいたからです。

しかし、ヘブライ人への手紙は、イサクだけが神の約束を受け継ぐ者であることを知っていました。主なる神とアブラハムが結んだ恵みの契約を受け継ぐ者はイサクの他にいません。だから、ヘブライ人への手紙は、「この独り子については、「イサクから生まれる者が、あなたの子孫と呼ばれる」と言われていました。」と記しています。これは、旧約聖書の創世記21章12節の御言葉の引用です。主なる神は、アブラハムに「あなたの子孫はイサクによって伝えられる」と言われています。

そして、19節でヘブライ人への手紙はわたしたち読者にアブラハムの信仰を証ししています。「アブラハムは、神が人を死者の中から生き返らせることもおできになると信じたのです。」。

使徒パウロがローマの信徒への手紙4章17節で次のようにアブラハムの信仰を述べています。「死者に命を与え、存在していないものを呼び出して存在させる神を、アブラハムは信じ、その御前でわたしたちの父となったのです。」

ヘブライ人への手紙は、使徒パウロのこの言葉を知っていたでしょう。だから、アブラハムは、主なる神に独り子イサクを犠牲として献げよと命じられた時に、神は死者の中からイサクを生き返らせることがおできになると信じて、神に完全に従ったのです。

主なる神は、アブラハムにイサクを犠牲として献げることを制止されました。主なる神はアブラハムにイサクを返されました。ヘブライ人への手紙は、その出来事を、アブラハムが主なる神に死者の中からイサクを返してもらったのと同じであると述べているのです。

そして、ヘブライ人への手紙は、わたしたち読者にこの出来事を将来のキリストの十字架の死と復活を暗示するものとして記しているのです。

20節は、族長イサクの信仰です。創世記27章はイサクの二人の子エソウとヤコブの相続争いを記しています。弟のヤコブが兄のエソウの長子の権利と祝福を奪うのです。ヤコブは己の知恵と母リベカの知恵に助けられ、兄エソウの長子の権利と祝福を奪いました。

イサクはヤコブにこの地上の祝福だけではなく、彼の子孫からメシアが現われ、全ての民を支配するという祝福を祈りました。そして、彼はエソウに彼の子孫が自然の恵みに与かれず、砂漠に住み、他の民と敵対して暮らし、ヤコブの子孫に仕えた後に、解放されるという将来について祝福を祈りました。

21節でヘブライ人への手紙は、創世記48章の出来事を手短に述べています。エジプトで宰相になったヨセフは、父ヤコブと彼の家族をエジプトに呼び寄せました。飢饉を避けるためです。ヤコブはエジプトで死にました。彼に死が迫り、彼は息子のヨセフの二人の孫たちを招いて、祝福しました。

ヤコブは二人の孫を祝福し、将来弟のエフライムが兄のマナセよりも大きくなり、イスラエルの国に満ちると祝福しました。

22節でヘブライ人への手紙は、族長ヨセフの信仰を記しています。彼は、ヤコブの12人の子供たちの中で、夢を見る者でした。彼は、エジプトの飢饉を言い当てて、その対策を示し、ファラオに宰相に取りたてられました。兄弟たちによってエジプトに奴隷として売られ、宰相までに出世した人です。

彼は、終りを迎えた時、彼の子たちに次のように預言しました。エジプトに滞在するイスラエルの民は将来約束の地カナンに脱出するだろう。その時に自分の遺骨を携えて行くようにと。

すなわち、ヨセフは、子供たちに将来イスラエルがエジプトを脱出すると預言し、その証しとして彼の遺骨を約束の地に携えて行くようにと、彼の信仰を証ししました。

このように4人の族長たちは、彼らが見ていない将来に対して主なる神を信頼するゆえにまたら彼の死後に対する神への信頼のゆえに、ヘブライ人への手紙は、彼らがわたしたちキリスト者と同じように、復活への希望を持つことを見たのではないでしょうか。

ヘブライ人への手紙がわたしたちに伝えたいことは、こう言うことではないでしょう。今、わたしたちの目の前には不安しかないでしょう。明日のことは分かりません。しかし、ヘブライ人への手紙はわたしたちにこう述べているのです。わたしたちも信仰によって、族長たちのように神を信じて生きて行くべきであると。

祝福を約束してくださった主なる神変わられることがないのだから、わたしたちは見ることが出来ない将来について不安に思う必要はないのです。死んで復活されたキリストがわたしたちのために御国に住まう部屋を用意してくださっているのです。

だから、わたしたちは四人の族長たちのように信仰によってわたしたちの故郷が天にあることを証ししようではありませんか。

お祈りします。

主イエス・キリストの父なる神よ、今朝は、ヘブライ人への手紙第11章1－40節の御言葉を読み、17－22節の御言葉を学ぶ機会が与えられて感謝します。四人の族長たちの信仰を学ぶことができて感謝します。

アブラハムは、わが子を犠牲として献げよと命じられたとき、完全に主なる神に服従しました。彼のように、わたしたちも神を信頼して、神に従わせてください。

族長たちのように神を信頼し、見ていない将来における神の祝福を信じさせてください。

どうか、死者を生かすことのできる主なる神を信じて、復活の希望に生かしてください。

この祈りと願いを主イエス・キリストの御名によって祈ります。アーメン。

ヘブライ人への手紙説教３９　　　　　　　　　　　　　　2023年2月12日

信仰とは、望んでいる事柄を確信し、見えない事実を確認することです。昔の人たちは、この信仰のゆえに神に認められました。

女たちは、死んだ身内を生き返らせてもらいました。他の人たちは、更にまさったよみがえりに達するために、釈放を拒み、拷問にかけられました。また、他の人たちはあざけられ、鞭打たれ、鎖につながれ、投獄されるという目に遭いました。彼らは石で打ち殺され、のこぎりで引かれ、剣で切り殺され、羊の皮や山羊の皮を着て放浪し、暮らしに事欠き、苦しめられ、虐待され、荒れ野、山、岩穴、地の割れ目をさまよい歩きました。世は彼らにふさわしくなかったのです。

　　　　　　　　　　　　　　　ヘブライ人への手紙第11章1－40節

説教題:「信仰を受け継ぎ」

本日でヘブライ人への手紙11章1－40節の御言葉の学びは終わります。32－40節の御言葉を学びましょう。

　二つの部分から成り立っています。32－38節と39－40節です。32－38節は、多くの士師たち、預言者たち、殉教者たちの信仰が証しされています。39－40節は、11章全体の結論を述べています。

ヘブライ人への手紙は、32節で「これ以上、何を話そう。もしギデオン、バラク、サムソン、エフタ、ダビデ、サムエル、また預言者たちのことを語るなら、時間が足りないでしょう。」と述べています。

この32節を分岐点として、11章1－31節と32節以下が文章の形として別の文体になっています。その証拠に「信仰によって」という言葉が出て来なくなります。しかし、主旨は変わりません。ヘブライ人への手紙は、預言者たちのことを証しするなら時間が足りないと述べて、4人の士師の名とダビデとサムエルの名を挙げています。

32節の「ギデオン、バラク、サムソン、エフタ」は、旧約聖書の士師記に登場します士師たちです。彼らは、神の民イスラエルの指導者たちで、他国から神の民を守り、また、神の民を裁き、統治しました。ヘブライ人への手紙は、彼ら四人を預言者として、彼らの信仰を証しするのです。

「ダビデ、サムエル」は、ダビデ王国の王と士師であり、預言者です。この二人は、神政政治と預言者の基礎を築いた人たちです。

ヘブライ人への手紙は、ダビデ王国の王の名を、ダビデ以外述べていません。また大祭司の名を述べていません。その理由は、ヘブライ人への手紙がすでに述べてきましたように、ダビデ王国やユダヤ教の大祭司よりも主イエスが属されるメルキゼデクを重んじているからです。メルキゼデクこそが真実の祭司であり王であると信じているからです。

33節から38節でヘブライ人への手紙は「信仰によって」と述べて、多くの預言者や殉教者たちの信仰を証しします。

35節の「他の人たちは、更にまさったよみがえりに達するために、釈放を拒み、拷問にかけられました。」という文章を分岐点として、33－35節前半が勝利と約束の実現を主題とし、35節後半—38節が最終の実現を目指して苦難の中の堅忍を、すなわち、殉教を主題としています。

士師たちは周辺諸国からイスラエルを守り、ダビデ王は周辺諸国を征服し、ダビデ王国を建てました。33節の「正義を行ない」は、神の民を裁くことです。神の民を統治することです。主なる神が約束されたものを、神の祝福を得ました。「獅子の口をふさぎ」とは、ダビデが羊飼いの時に獅子の口から羊を守りました。ダニエルが獅子の穴に入れられた時、天使が獅子の口からダニエルを守りました。

34節の「燃え盛る火を消し」は、シャドラク、メシャク、アベド・ネゴが偶像礼拝を拒み、ネブカドネツァル王に火の炉に投げ込まれたことです。「剣の刃を逃れ」は、ダビデ、エリヤとエリシャが王に殺されそうになったことです。「弱かったのに強い者とされ」は、頭の毛を切られ、目をつぶされて弱い者となった士師サムソンが最後に回復され、復讐したことです。「戦いの勇者となり」は、ダビデが巨人ゴリアトに勝利したことです。「敵軍を敗走させました」は、ユダ・マカバイの指揮下でイスラエルがシリアの軍隊と戦って勝利し、シリア軍を敗走させたことです。

35節の「女たちは、死んだ身内を生き返らせてもらいました。」は、預言者エリヤにわが子の命を生き返らせてもらったサレプタのやもめ、預言者エリシャにわが子を生き返らせてもらったシュネムの女のことです。

35節後半からは、究極の救いを求めて苦難の中の堅忍を主題とした出来事を証しします。35節後半は、殉教者たちのことを証しします。36節の「また、他の人たちはあざけられ、鞭打たれ、鎖につながれ、投獄されるという目に遭いました。」は、マカバイ時代の殉教者たち、預言者エレミヤの屈辱的体験、迫害のことです。

37節の「彼らは石で打ち殺され」は、祭司ヨヤダの子ゼカルヤの殉教です。「のこぎりで引かれ」は、預言者イザヤのことです。「剣で切り殺され」は、預言者エリヤの時代の預言者たちです。「羊の皮や山羊の皮を着て放浪し」は、エリヤ、エリシャ、マカバイ時代の殉教者たちのことです。

37－38節の「暮らしに事欠き、苦しめられ、虐待され、荒れ野、山、岩穴、地の割れ目をさまよい歩きました。」は、シリア・セレウコス王朝に抵抗したユダヤ独立の戦士たちのことです。

これらの殉教者たちは、主なる神の戒めに忠実な者たちでした。預言者たち、殉教者たちが各々様々な形で苦難を負い、殉教と逃亡生活に耐えたのです。そして彼らの証言を通して、38節でヘブライ人への手紙が一つの価値判断を下しています。「世は彼らにふさわしくなかったのです」と。

ヘブライ人への手紙は、「世」という言葉を、10章5節と11章7節で使っています。11章7節では神に裁かれる世界です。10章5節は、キリストがこの世に来られたと述べています。世は、神に敵対する世界です。神が裁かれる世界です。実際、わたしたちが肌身に感じるように、神なしに成立している人間社会です。だから、ヘブライ人への手紙は敬虔な預言者たちや殉教者たちが住むに価しないと判断を下しているのです。

　神なしに成立しています人間社会がわたしたち信仰者を受け入れてくれるのは、信仰とは関係のない動機からです。特に日本の国は少数者に対して非寛容です。同姓婚者に対して政府の高官が差別発言をし、更迭されるという事件が最近起こりました。無視できない出来事です。高官が彼らを否定するのは、国の根幹が揺らぐからです。国のために個人の人権が虐げられています。この国で少数者であるキリスト者対する弾圧への一里塚です。昔、共産党が政府に弾圧され、新興宗教が弾圧されました。キリスト教会は他人事のように無関心でした。しかし、国家はわたしたち教会に国家神道に膝を屈するように強制して来たのです。その時には教会は国家と戦う信仰を失っていたのです。

　今は日本国憲法の下に基本的人権と信教の自由が擁護されています。しかし、自民党は日本国憲法を覆そうとしています。神なしに成立していますこの世が日本国憲法を覆すなら、わたしたち教会がこの世に受け入れられる所はどこにもありません。この世は、わたしたち教会にとって荒野であることを忘れてはならないよ、とヘブライ人への手紙はわたしたちに警告しているのです。

　最後にヘブライ人への手紙は、11章全体の結論を述べています。それが39－40節の御言葉です。ヘブライ人への手紙は、11章2節の導入の御言葉に戻ります。昔の敬虔な人々は、神の約束のものを目で見ていませんでしたが、心で信じて確信していました。だから、ヘブライ人への手紙は、その信仰のゆえに神が彼らを認められたと述べています。旧約時代の信仰者たちも、わたしたちと同じように信仰によって主なる神に受け入れられていたのです。

　しかし、彼らが望んだ神の約束、すなわち、彼らの究極の救いは実現していませんでした。この世に来られたキリストによって、新しい神の約束が福音を通して明らかにされました。キリストの十字架と復活を通して神の約束が明らかにされました。

　キリストが人の罪のために死なれ、三日目に復活し、天に昇られました。このキリストを通して、教会は御国、永遠の命を相続するという約束を得ました。今わたしたちは、救いの完成を目指して歩んでいます。わたしたちと同じ道を旧約の預言者たちや殉教者たちも歩んでいるのです。わたしたちは旧約の預言者たちや殉教者たちの信仰を受け継ぎ、更に完成を目指して、御国への旅を続けているのです。

お祈ります。

主イエス・キリストの父なる神よ、本日で、ヘブライ人への手紙第11章1－40節の御言葉を学び終えることができて感謝します。

わたしたちと旧約の預言者たち、殉教者たちは同じ信仰によって、キリストを主と信じ、モーセとモーセに従う神の民たちのように、御国へと信仰の民を続けています。

どうか、信仰によって目で見なくても、心で神の約束を信じさせてください。

どうか、この世の誘惑と迫害からお守りください。この世がわたしたちに相応しくないことを忘れることなく、わたしたちの国籍が天にあることを常に心に留めさせてください。

どうか、苦難の中に、聖徒の堅忍が、主なる神のお守りがあると信じさせてください。

上諏訪湖畔教会も旧約の預言者たちや殉教者たち、そして、初代教会や宗教改革の教会の信仰者たちの信仰を受け継ぎ、75年間歩んできました。

どうか、主が再臨される日まで、この教会をこの世に残し、信仰から信仰へと歩ませてください。

この祈りと願いを主イエス・キリストの御名によって祈ります。アーメン。

ヘブライ人への手紙説教４０　　　　　　　　　　　　　　2023年2月19日

こいうわけで、わたしたちもまた、このようにおびただしい証人の群れに囲まれている以上、すべての重荷や絡みつく罪をかなぐり捨てて、自分に定められている競争を忍耐強く走り抜こうではありませんか。信仰の創始者また完成者であるイエスを見つめながら。このイエスは、御自身の前にある喜びを捨て、恥をもいとわないで十字架の死を耐え忍び、神の玉座の右にお座りになったのです。あなたがたが気力を失い疲れ果ててしまわないように、御自分に対する罪人たちのこのような反抗を忍耐された方のことを、よく考えなさい。

　　　　　　　　　　　　　　　ヘブライ人への手紙第11章39節－第12章3節

説教題:「心を高く挙げよ」

ヘブライ人への手紙11章39節から12章3節の御言葉を学びましょう。12章は、ヘブライ人への手紙の最後の勧告です。

ヘブライ人への手紙は、11章1－40節で「信仰によって」というフレーズを繰り返して、神に認められていた旧約時代の信仰者たちの信仰を列挙しました。彼らは、わたしたちキリスト者と同じ神の約束を信じて、永遠の安息、天のふるさと、神の都を目指して、この地上では寄留者として生きました。しかし、彼らは、神の約束を手にはしていません。彼らの救いは完成していません。なぜなら、神はさらに良きことを計画されていたからです。ヘブライ人への手紙は、11章40節でこう述べています。「神は、わたしたちのために、更にまさったものを計画してくださったので、わたしたちを除いては、彼らは完全な状態に達しなかったのです。」

神は、旧約時代の信仰者たちの救いの完成を、わたしたちと共に完成することを望んでおられます。だから、わたしたちの救いが完成するまで、彼らの救いの完成はありません。また、神は「更にまさったものを計画してくださった」のです。旧約時代の信仰者にとっては預言でしたが、私たちにとっては成就であるキリストによってはっきりと示された新しい約束です。キリストの福音が与えられています。キリストの十字架と復活の福音によって私たちキリスト者は、罪を赦され、神と和解し、神の子とされ、復活し永遠の御国を相続するのです。その時旧約時代の信仰者たちもわたしたちと同じ祝福に入るのです。

ヘブライ人への手紙は、12章1節で「こういうわけで」と述べています。11章で証しされた旧約時代の信仰者たちの信仰の実例についての記述全体を受けて、最後の勧告に移るためです。

そして、勧告に相応しい命令調で、ヘブライ人への手紙は、次のように勧告するのです。「わたしたちもまた、このようにおびただしい証人の群れに囲まれている以上、すべての重荷や絡みつく罪をかなぐり捨てて、自分に定められている競争を忍耐強く走り抜こうではありませんか。」

この最後の勧告の導入部分である12章1－3節の御言葉は、主イエスに従うことへの呼びかけで始められています。そして、この呼びかけには、一つのイメージがあります。それは、国立競技場で競争をする選手です。大勢の観客に見守られ、声援を受けて、スタートからゴールまで選手たちは、全力で走ります。

1節の「このようにおびただしい証人の群れに囲まれている以上」という御言葉は、旧約時代の信仰者たちが観客として、わたしたちの信仰の戦いを観戦しているのです。これは誤解を与える言い方です。正しく言えば、雲のように多くの旧約時代の信仰者たちが彼らの信仰の戦いの後に続いているわたしたちを見守っているのです。

わたしたちは、彼らの信仰とこの地上における信仰の戦いの模範を示されたわけですから、彼らに続いてこの世において信仰の戦いを続けなければなりません。わたしたちは、神に信仰を認められ、神の約束を信じて、この世では寄留者として生き、天のふるさと、神の都を目指して信仰の旅を続けた多くの証人を知っています。彼らは殉教者でもありました。キリストのゆえにファラオ―に迫害されることを喜びました。彼らは、キリスト者であるわたしたちの信仰生活を支え、導く者たちです。彼らは、これからこの世において試練を受けるわたしたちの目撃証人であり、励ましてであり、支えてくれる者です。

今日マラソン、駅伝という競技は、盛んに行われております。わたしも毎年箱根駅伝は楽しみにしています。解説者が親切な解説をしてくれるので、素人のわたしでも走っている選手の状態を知ることができます。解説者は箱根駅伝の経験者です。だから、自分がしてきた体験を生かして、走っている後輩に適切なアドバイスができます。

「今に集中しろ」とか、「目を上げて、前の相手を追え」とか、いろいろアドバイスできます。ヘブライ人への手紙も同じです。「すべての重荷や絡みつく罪をかなぐり捨てて、自分に定められている競争を忍耐強く走り抜こうではありませんか。」

駅伝のランナーは、努力に努力を重ねて、選手に選ばれたでしょう。当日まで体調を管理することが大変だったでしょう。多くの先輩たちを追い越して選手になった後輩もいろいろと迷うことがあったでしょう。だが、今は走ることに集中しなければなりません。走ることに邪魔になる思いは捨てなければなりません。ヘブライ人への手紙は、信仰者も同じであると言っているのです。

「重荷」とは、わたしたちの魂がこの世の煩いで不信仰になることか、仕事の忙しさで礼拝を疎かにすることです。「絡みつく罪」とは、重くて長い外套を着ていて、歩みを妨げられることです。罪は常にわたしたちの心を暗くし、わたしたちの信仰せ活を妨げるものです。

だから、駅伝ランナーがこの世の煩い、走ることを妨げるものをすべて棄てて、走ることに集中するように、ヘブライ人への手紙は、わたしたちにこのように勧告するのです。「自分に定められている競争を忍耐強く走り抜こうではありませんか。」

駅伝ランナーには、何区を走るか、何キロを走るかは定められています。同じようにわたしたちの信仰生活も、どこで、何年、信仰生活を続けるのか、神は定めておられます。

駅伝ランナーと信仰者の違いは、全力で辛抱して、忍耐強く走るのか、神が定められた信仰生活の全ての過程を神の保持の中で走るのか、この違いがあります。10章36節でヘブライ人への手紙は、次のように勧告していました。「神の御心を行って約束されたものを受けるためには、忍耐が必要である」。この「忍耐」とは、聖徒の堅忍であると、既にお話ししました。キリスト者の信仰生活の全過程が神の保持の中で行われているのです。神の約束を、わたしたちが得るためには、わたしたちの努力よりも神がわたしたちを常にお守りくださり、神の約束が得られるようにしてくださらなければなりません。それが「忍耐が必要である」という意味です。

同じようにわたしたちが神の定めてくださった信仰生活の全過程を無事に走り抜くことができますのは、神がわたしたちの信仰生活をお守りくださっているからです。だから、わたしたちは、この世においてどんなことが起きても、信仰を維持できるのです。そういう意味で耐え忍ぶことができると言っても良いかもしれません。

さらに、ヘブライ人への手紙は、わたしたちに12章2節でこう勧めているのです。「信仰の創始者また完成者であるイエスを見つめながら。このイエスは、御自身の前にある喜びを捨て、恥をもいとわないで十字架の死を耐え忍び、神の玉座の右にお座りになったのです。」

ヘブライ人への手紙は、わたしたちに次のように勧告しています。わたしたちがこの世で信仰生活をしているとき、常に主イエス・キリストを見上げていなければならないと。

ヘブライ人への手紙は、6章20節で「イエスは、わたしたちのために先駆者としてそこに入って行き、永遠にメルキゼデクと同じような大祭司となられた」と述べています。ここでは、「信仰の創始者また完成者であるイエス」と呼ばれています。「先駆者」と「創始者」は両義語です。同じ意味です。主イエスが先頭走者です。わたしたちは、主イエスに導かれて御国に至り、救いの完成に与るのです。だから、主イエスはわたしたちが信仰生活を通して究極の救いに至る完成者なのです。

だから、ヘブライ人への手紙は、2章10節でこう述べています。「というのは、多くの子らを栄光へと導くために、彼らの救いの創始者を数々の苦しみを通して完全な者とされたのは、万物の目標であり源である方に、ふさわしいことであったからです。」

神の御子である主イエスが人となられて、この世に来られ、十字架の死に至るまで数々苦しみを負われました。ヘブライ人への手紙にとっては、キリストの十字架は主イエスの苦しみであり、刑罰であり、犠牲でした。

そして、今主イエスは十字架の苦しみの後、復活し昇天し、父なる神の右に座しておられるのです。主イエスは、わたしたちの救いの創始者であり、完成者として、わたしたちを守り、御国へと導かれているのです。

ヘブライ人への手紙は、わたしたちに12章3節でこう勧告しています。「あなたがたが気力を失い疲れ果ててしまわないように、御自分に対する罪人たちのこのような反抗を忍耐された方のことを、よく考えなさい。」

マラソンランナーも気力を失い、疲れ果てることで、命取りになることがあります。最後まで気力を充実させて走り切らなければなりません。

しかし、急に体調不良になり、元気に走っていたランナーの足が弱くなり、スピードも落ち、心身共に疲れ果てて途中棄権することがあります。

同じことがわたしたちの信仰生活にもあります。この世の重荷が重なり、心を病み、何事にも無気力、無関心になることがあります。聖書を読みたくなくなり、祈りたくなくなり、教会の集会にも出たくなくなります。

ヘブライ人への手紙がわたしたちに勧告したいことは、「心を高く挙げよ」ということです。十字架のキリストを見上げよということです。

辛いことが続くと、わたしたちは自己防衛のために心を閉ざすのです。何もしたくなくなります。一日下を向いているかもしれません。それは、信仰者の姿ではありません。

十字架のキリストは、心を閉ざされ、下を向かれていたでしょうか。心を高く挙げて、父なる神を見ておられたのではないでしょうか。

だから、殉教者ステパノもユダヤ人たちが彼に石を投げて迫害した時に、心を高く挙げて父なる神の右に座されているキリストを見上げました。それが、ステパノが十字架の主イエスを見上げて考えた結論だったと、わたしは思うのです。

今から讃美歌21の18番を賛美しましょう。「心を高くあげよ」という題の讃美歌で、ヘブライ人への手紙12章1‐2節が引用されている讃美歌です。

心を高く挙げて、父なる神の右に座される大祭司主イエス・キリストを見上げようではありませんか。

主イエスがわたしたちをお守りくださっています。ステパノは父なる神の右に座される主イエスを見上げて、ユダヤ人たちの迫害の中で平安を得たのです。わたしたちは、どうでしょうか。この礼拝を通して、わたしたちの心を高く挙げて、神の右に座されているキリストが、再びわたしたちの所に来られることを待ち望もうではありませんか。

お祈ります。

主イエス・キリストの父なる神よ、本日は、ヘブライ人への手紙第11章39節―12章3節の御言葉を学びました。

ヘブライ人への手紙の最後の勧告を学びます。どうか、わたしたちがこの学びをとおして、主イエス・キリストを、心を高くして仰がせてください。

どうか、わたしたちが目の前の困難さによって、心を閉ざし、下を向いて信仰に対して無気力となり、無関心となることのないようにしてください。

どうか、讃美歌21の18番を高らかに賛美させてください。わたしたちの心を高く挙げて、主イエスを見上げさせてください。

どうか、わたしたちがこの世の誘惑を受ける時も、迫害に遭うときも、わたしたちの心を高く挙げて、主イエスを見上げさせてください。

この祈りと願いを主イエス・キリストの御名によって祈ります。アーメン。